競馬の脚質まくりを徹底解説!差しとの違いや有名馬まで

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競馬観戦の醍醐味の一つに、後方から一気に馬群を飲み込んでいく豪快なレース展開があります。その中でも、特に観る者の心を揺さぶるのが「まくり」という戦法です。この記事では、競馬の脚質の中でも異彩を放つ、まくりとは何かを徹底的に解説します。競馬の基本的な脚質一覧から、まくりと差し、そして追い込みとの違い、さらには有名なゴールドシップが見せた伝説の大まくりまで、多角的に掘り下げていきます。また、捲りとも呼ばれるこの戦法の語源や、レースのペースと展開がどのように影響するのか、まくりが上手い騎手は誰なのかといった、より深い知識もご紹介します。競走馬の脚質の調べ方も解説しますので、競馬初心者の方から、予想の精度を上げたい方まで、ぜひ参考にしてください。

  • 「まくり」の基本的な意味と他の脚質との違い
  • 「まくり」が成功しやすいレース条件や展開
  • 「まくり」を得意とした伝説的な名馬や騎手
  • 競馬予想に活かせる「まくり」の見抜き方
目次

競馬の脚質「まくり」を理解する基礎

  • 競馬の脚質とは?主な脚質一覧
  • 競走馬の得意な脚質の調べ方
  • 捲りとも言う競馬のまくりとは何か
  • 競馬における差しとまくりの違い
  • 追い込みとまくりの関係性を解説

競馬の脚質とは?主な脚質一覧

競馬における脚質(きゃくしつ)とは、競走馬一頭一頭が持つ、得意な走り方やレース運びのスタイルのことを指します。これは単にスピード能力だけでなく、馬の性格(気性)にも大きく左右される要素です。闘争心が強く前に出たがる馬もいれば、他の馬に囲まれるのを嫌う臆病な馬もいます。これらの個性とトレーニングによって、その馬の得意な戦法、つまり脚質が形成されていくのです。

脚質はレース展開を予測する上で非常に重要なファクターであり、主にレース中の位置取りによって以下の4つに分類されます。

脚質読み方特徴
逃げにげスタート直後から先頭に立ち、そのままゴールまで粘り込む戦法。レースのペースを自分で作ることができます。
先行せんこう逃げ馬のすぐ後ろ、2番手から5番手あたりの好位置でレースを進めます。安定して力を発揮しやすいとされています。
差しさし道中は中団あたりでスタミナを温存し、最後の直線で前方の馬を交わしにかかる戦法。瞬発力が求められます。
追い込みおいこみ道中は後方で脚を溜め、最後の直線だけで勝負をかける戦法。爆発的な末脚(すえあし)が必要です。

これらの脚質は固定的なものではなく、レースのメンバー構成や展開によって、先行策をとる馬が差しに回るなど、柔軟に変化することもあります。

競走馬の得意な脚質の調べ方

競走馬の得意な脚質を調べるには、いくつかの方法があります。競馬予想をする上で非常に役立つ情報なので、ぜひ確認方法を覚えておきましょう。

競馬新聞やスポーツ新聞で確認する

最も手軽な方法は、競馬新聞やスポーツ新聞の馬柱(うまばしら)を見ることです。各馬の過去のレース成績欄には、脚質が「逃」「先」「差」「追」などの記号で記載されていることが多く、一目でその馬の得意な戦法を把握できます。

競馬情報サイトを活用する

netkeiba.comなどの競馬情報サイトでは、各馬のプロフィールページで脚質を確認できるほか、過去のレース結果を詳細に分析できます。特に注目したいのが「コーナー通過順位」です。

例えば、過去のレースの通過順位が「10-10-6-4」となっていれば、道中は10番手にいた馬が、第3コーナーで6番手、第4コーナーで4番手へとポジションを上げたことが分かります。このようなデータから、その馬がどのようなレース運びを得意とするかを具体的に読み解くことが可能です。

コーナー通過順位の分析が鍵
コーナー通過順位は、その馬のレース中の動き方を数字で客観的に示してくれます。特に、第3コーナーから第4コーナーにかけて順位を大きく上げている馬は、「まくり」の適性がある可能性が高いと判断できます。

捲りとも言う競馬のまくりとは何か

「まくり」とは、主に差しや追い込み馬が、レース中盤から終盤にかけて、通常よりも早いタイミングでスパートを開始する戦法のことです。一般的に「捲り」と漢字で表記されることもあります。

具体的には、多くの馬がスタミナを温存している向こう正面(バックストレッチ)や第3コーナーあたりから、馬群の外側を一気に駆け上がり、最後の直線に入る前には先頭、あるいは先頭に近い位置までポジションを押し上げます。

この戦法は、レースの展開を根底から覆す可能性を秘めており、後方から一頭だけ違うスピードで上がっていく様は、競馬観戦の醍醐味の一つと言えるでしょう。

「まくり」は、他の馬が仕掛けるのを待つのではなく、自らレースを動かしにいく非常にアグレッシブな戦法なんです。決まった時のインパクトは絶大ですよ。

競馬における差しとまくりの違い

「まくり」と「差し」は、どちらも道中である程度の位置に控え、最後に前方の馬を交わすという点では似ていますが、そのプロセスには決定的な違いがあります。

最大の違いは、勝負を仕掛けるタイミングです。

  • 差し:最後の直線に入ってからスパートし、ゴールまでの短い距離で前方の馬を交わす。求められるのは一瞬のキレ、つまり「瞬発力」です。
  • まくり:最後の直線に入るずっと前、第3コーナーあたりからスパートを開始し、長い距離をトップスピードで走り続ける。求められるのはスピードを持続させる能力、つまり「持続力」と「スタミナ」になります。

言ってしまえば、「差し」がゴール前の瞬発力勝負であるのに対し、「まくり」はレース終盤の展開をスタミナ勝負へと強制的に変える行為なのです。

差しまくり
勝負所最後の直線第3コーナー~第4コーナー
必要な能力瞬発力、鋭い加速力持続力、スタミナ
レース展開他馬の動きに対応するリアクション型自らレースを動かすアクション型

追い込みとまくりの関係性を解説

「追い込み」と「まくり」も、後方からレースを進める点で共通していますが、やはり仕掛けるタイミングが異なります。

「追い込み」は、道中をほぼ最後方で過ごし、エネルギー消費を極限まで抑えて、最後の直線だけで全ての馬を抜き去ることを目指す、非常に極端な戦法です。これは、差し以上に瞬発力が求められます。

これに対して「まくり」は、前述の通り、それよりもずっと早い段階から動き始めます。したがって、追い込み馬が展開によっては「まくり」という戦術を選択することがあります。

例えば、レースのペースが非常に遅く、最後の直線だけの勝負では前方の馬に届かないと判断した場合、騎手は早めに仕掛けて「まくり」に切り替えることがあるのです。このため、追い込み馬が過去に「まくり」の経験を持っているケースは少なくありません。

追い込み戦法のリスク
追い込みは、展開が向けば非常に華麗な勝ち方になりますが、ペースが遅いと前方の馬がバテず、全く届かないリスクも高い戦法です。そのため、騎手の判断で「まくり」に戦法を切り替えることがあるのです。

競馬の脚質「まくり」を成功させる条件

  • まくりが決まりやすいペースと展開
  • 豪快な競馬の大まくりという戦術
  • 競馬で有名なまくりとゴールドシップ
  • まくりが特に上手い騎手は誰か
  • 競馬の脚質「まくり」の魅力まとめ

まくりが決まりやすいペースと展開

「まくり」という戦法が成功するためには、単に馬の能力が高いだけでは不十分です。レース全体の流れを示す「ペース」と、どの馬がどの位置で競り合っているかという「展開」、そしてレースが行われる「コース形態」という3つの要素が複雑に絡み合います。これらの条件が揃ったとき、初めて記憶に残る豪快なまくりが完成するのです。

ここでは、まくりが決まりやすい条件を、より具体的に掘り下げて解説していきます。

レースペースの見極めが全ての始まり

レースのペースは、まくりが発動されるか否かを決定づける最大の引き金となります。特に典型的なのはスローペースの展開ですが、ハイペースでも有効なケースが存在します。

スローペース:まくりが誘発される最大の要因

これが、「まくり」が敢行される最も古典的で、かつ最も多い状況です。レース序盤から中盤にかけてのペースが遅いと、出走している全ての馬がスタミナを温存したままレース終盤を迎えることになります。この状態は、前方に位置する逃げ・先行馬にとって絶好の展開と言えるでしょう。

なぜならば、余力が十分に残っているため、最後の直線だけで瞬発力を競う「ヨーイドン」の展開に持ち込みやすいからです。このような展開は、一瞬のキレ味(瞬発力)よりも、長く良い脚を使い続けること(持続力)を得意とする馬にとっては極めて不利な状況となります。

そこで、この不利な状況を打破するために、騎手は意図的に早めに仕掛けるという決断を下します。つまり、レースを瞬発力勝負から、自らの土俵であるスタミナと持続力が問われる消耗戦へと強制的に書き換えるのです。これが、スローペースで「まくり」が発生する根本的な理由です。

レース前に「このレースはスローペースになりそうだ」と予測できれば、まくりを敢行しそうな馬を見つけ出す大きなヒントになります。出走メンバー表を見て、明確な逃げ馬がいない、あるいは1頭だけで楽に逃げられそうなメンバー構成の時が狙い目ですよ。

一方で、一般的ではありませんが、ハイペースの展開でもまくりが有効な武器となることがあります。

ハイペース:漁夫の利を狙う「まくり」

複数の逃げ馬や先行馬が序盤から激しく競り合い、スタミナを消耗しきった状況を想像してみてください。前方の集団が総崩れになることを見越して、中団以降で脚を溜めていた馬が、他の差し・追い込み馬よりも早く、第3コーナーあたりから一気に進出することがあります。これは、最後の直線での末脚勝負を待っているライバルたちを出し抜いて、有利な位置を先取りする「漁夫の利」を狙ったクレバーな戦術と言えます。

競馬場のコース形態が持つ決定的な役割

レースペースと並んで、まくりの成否を決定づけるのが、レースが行われる競馬場のコース特性です。特に「最後の直線の長さ」は、戦術の選択に直接的な影響を与えます。

コースの特性まくりへの影響代表的な競馬場
最後の直線が短い極めて有効
直線だけでは差し切れないため、コーナー手前で勝負を決める必要がある。
函館、小倉、中山、札幌、福島など
最後の直線が長い原則として不向き
早めに動くとスタミナを消耗し、長い直線で後続に交わされるリスクが高い。
東京、新潟(外回り)、中京、阪神(外回り)など

このように言うと、単純に直線の長さだけで決まるように思えるかもしれません。しかし、実際にはコーナーの形状や坂の有無なども複雑に関係してきます。

  • コーナーの形状:小倉競馬場のように、向こう正面から第3コーナーにかけて下り坂になっているコースは、馬が自然と加速しやすいため、まくりを仕掛けやすい「まくりの名所」として知られています。
  • 坂の存在:中山競馬場のゴール前にある急坂は、まくりでスタミナを消耗した馬にとっては最後の試練となります。逆に言えば、この坂を克服できるだけのパワーがあれば、まくりが非常に有効な戦術になるのです。

注意点:データ上の傾向
これらのコース特性はあくまで一般的な傾向です。絶対的な能力を持つ馬は、コースの不利をものともせずにまくりを決めることもあります。ただ、馬券を検討する上では、「直線が短いコースで、スローペースが予想されるレース」が、まくりを狙う絶好の機会であると覚えておくと良いでしょう。

豪快な競馬の大まくりという戦術

「まくり」の中でも、特にダイナミックで観る者の度肝を抜き、競馬史に伝説として刻まれるのが「大まくり」という戦術です。これは、通常のまくりが第3コーナーあたりから仕掛けるのに対し、それよりもずっと早い段階、例えば長距離レースの2周目向こう正面など、ゴールまでまだ1000m以上もあるような地点から一気にロングスパートをかける、極めて大胆な戦法を指します。

これは単なる早仕掛けという言葉では表現しきれない、レースの常識そのものを破壊する行為です。そのため、成功した時の衝撃は絶大で、競馬ファンに強烈な記憶を焼き付けます。

なぜ、これほど無謀な戦術が選択されるのか

一見すると無謀極まりない「大まくり」ですが、そこには騎手による緻密な計算と、やむにやまれぬ戦略的な理由が存在します。

戦略的意図①:超スローペースの破壊

「大まくり」が敢行される最大の要因は、レースが極端なスローペースに陥った場合です。特に長距離戦では、各馬がスタミナを温存しようとするあまり、前半がまるでジョギングのようなペースになることがあります。前述の通り、このような展開は後方にいるスタミナ自慢の馬にとっては致命的です。このままレースが進めば、自分の長所を完全に殺されたまま、瞬発力勝負で敗れることが確定してしまいます。この最悪のシナリオを回避するため、「ならば、今この瞬間から全馬を巻き込む消耗戦を始める」と、騎手はレースの脚本を書き換えるために動くのです。

戦略的意図②:絶対的な能力差の証明

もう一つの理由は、騎乗している馬が、他の出走馬たちとは比較にならないほどのスタミナを持っていると確信している場合です。通常のレースでは、馬群の中で進路が塞がれたり、他馬からのプレッシャーを受けたりと、能力を100%発揮できない不確定要素が多く存在します。そこで、そうした紛れを一切なくし、純粋な能力勝負に持ち込むために、誰にも邪魔されない外から早めに動き、全馬を実力でねじ伏せようとするのです。これは、まさに「王者の戦法」と言えるでしょう。

成功は伝説、失敗は無謀―紙一重のリスク

「大まくり」は、その破壊力と引き換えに、計り知れないリスクを伴います。成功と失敗はまさに紙一重です。

「大まくり」が抱える三重苦

  • スタミナの枯渇:最大の敵は、ゴール前でのスタミナ切れです。長いスパートによってエネルギーを使い果たし、最後の直線で脚が完全に止まって後続に飲み込まれてしまうリスクが常に付きまといます。
  • 格好の目標:一頭だけ早く動くため、他の全ての騎手にとって格好の目標(ターゲット)となります。後続の馬は、まくっていく馬をペースメーカーのように利用して、楽にポジションを上げることができてしまいます。
  • 距離のロス:馬群の外側を走り続けるため、内側を走る馬に比べて物理的に長い距離を走らされることになります。この距離ロスは、ゴール前でのわずかな差に繋がります。

これらの不利を全て乗り越えて勝利するためには、馬と騎手の両方に、常識を超えた特別な能力が求められます。

「大まくり」は、まさに諸刃の剣。成功すれば歴史的な名騎乗として称賛されますが、失敗すれば「なぜあんな無謀なことを」と批判されることも。その緊張感こそが、見る者を惹きつけてやまない魅力の源泉なのです。

代表例:2015年 天皇賞(春)のゴールドシップ

この戦術を語る上で、やはりゴールドシップと横山典弘騎手によるこのレースは欠かせません。超スローペースの展開に、横山騎手は2周目の向こう正面で決断。ゴールまで1200m以上ある地点からのロングスパートは、まさに「大まくり」でした。結果的に、この早すぎるほどの仕掛けがライバルたちのリズムを完璧に狂わせ、歴史的な勝利に繋がったのです。

競馬で有名なまくりとゴールドシップ

理論やデータをどれだけ積み重ねても、「まくり」という戦法の真の魅力を伝えることはできません。その神髄は、歴史に名を刻んだ名馬たちがターフの上で見せた、観る者の魂を揺さぶる走りにこそ宿っています。ここでは、数々の伝説の中から、特に記憶に残る「まくり」のレースと、それを成し遂げた名馬たちを紹介します。

不世出のスター、ゴールドシップという現象

現代の競馬において「まくり」を語る時、誰もが真っ先に思い浮かべるのが、芦毛の怪物ゴールドシップでしょう。彼の競走生活は、予測不可能な気性と、常識を破壊する走りで見ている者を魅了し続けました。馬群の中で窮屈な競馬をすることを極端に嫌い、自らのタイミングで、自らの走りたいように走る。その唯一無二の個性が、「まくり」という戦法と奇跡的な化学反応を起こしたのです。

伝説のレース①:2012年 菊花賞 ~意志が起こした奇跡~

3000mという長丁場でスタミナが問われるクラシック三冠の最終戦。このレースでゴールドシップが見せたパフォーマンスは、伝説として今なお語り継がれています。

レース中盤、ゴールドシップは18頭立ての後方17番手という絶望的とも思える位置にいました。多くのファンが固唾を飲んで見守る中、レースが大きく動いたのは、京都競馬場名物の第3コーナー、通称「淀の坂」と呼ばれる上り坂でした。普通ならばスタミナを温存するため息を入れるこの地点で、ゴールドシップは鞍上の内田博幸騎手と共に進撃を開始します。

馬群の大外を、まるで滑るようにポジションを上げていく様は圧巻でした。テレビカメラが先頭集団を捉えようとしても、画面の端から猛然と追い上げてくる芦毛の馬体がそれを許しません。コーナー通過順位の公式データが示す「⑰-⑰-④-②」という数字は、この動きがいかに異常であったかを雄弁に物語っています。最後の直線に入る前にはすでに先頭に並びかけ、あとは後続を突き放すだけでした。これは、スローペースを見越した早めの仕掛けというより、馬自身の圧倒的なスタミナと「前に行く」という強い意志がレースの常識をねじ伏せた、まさに怪物ならではの「まくり」でした。

伝説のレース②:2015年 天皇賞(春) ~計算され尽くした神業~

3200mの長距離王決定戦。このレースでのゴールドシップは、彼の持つ気難しさと、それを乗りこなす名手・横山典弘騎手の神業が融合した、まさに人馬一体の「まくり」を見せつけました。

スタートで出遅れて道中は最後方を追走。前半1000mの通過が61.4秒というスローペースで進む中、このままでは前方の馬に逃げ切られてしまう絶体絶命の展開でした。レースが2周目に入った向こう正面、まだ他のどの馬も仕掛けていないタイミングで、横山典弘騎手は動きます。ゴールドシップを馬群の外に持ち出し、一気にスパートをかけたのです。

淀の坂を駆け上がりながら先行集団を射程圏に捉える圧巻のロングスパート。最後の直線では、先に抜け出した馬たちとの壮絶な叩き合いをクビ差で制し、悲願の天皇賞制覇を成し遂げました。これは、スローペースという状況を冷静に判断した騎手の計算と、馬の底知れぬ能力が完璧にシンクロした、「まくり」の教科書とも言うべきレースです。

ゴールドシップのまくりは、ある時は馬自身の本能的な衝動であり、またある時は騎手による緻密な戦略でした。この予測不能性こそが、彼がファンから愛され続ける理由なのでしょう。

記憶に刻まれる「まくり」の系譜

ゴールドシップ以前にも、「まくり」でファンを熱狂させ、競馬史にその名を刻んだ名馬たちが存在します。彼らの走りが、「まくり」という戦法の伝説を築き上げてきました。

  • ミスターシービー (Mr. C.B.)
    「元祖まくり」と言えば、1983年に三冠を達成したこの馬を置いて他にはいません。彼のレースは、第3コーナーから馬群の外を豪快に突き抜けるのが勝ちパターン。特に無敗で制した菊花賞での走りは、オールドファンに強烈な印象を残しており、後方からごぼう抜きにしていく姿は、まさに「まくり」の原風景と言えるでしょう。
  • ディープインパクト (Deep Impact)
    彼の代詞は、最後の直線だけで見せる「飛ぶ」ような末脚ですが、キャリアの中で一度だけ、まくり気味のレースで圧勝したことがあります。それが2006年の天皇賞(春)です。淀の坂で早めに進出を開始し、第4コーナーでは先頭に立つという、彼のキャリアの中では極めて珍しいレース運びでした。これは、馬の絶対的な能力が、戦法のセオリーすら超越することを示した一例です。
  • オルフェーヴル (Orfevre)
    ゴールドシップとしばしば比較される、激しい気性と爆発的な脚力を併せ持った三冠馬です。彼のレースは、時に鞍上の制御すら振り切るほどのロングスパートとなり、その姿は「まくり」の持つ凄まじい破壊力を想起させました。特に、世界最高峰のレースである凱旋門賞で見せた、一度は完全に先頭に立つかと思わせた驚異的な追い上げは、彼の破天荒な個性を象徴する走りとして記憶されています。

これらの名馬たちが見せた魂の走りは、「まくり」が単なる戦術ではなく、一頭の馬の個性と意志が爆発する芸術であり、歴史を創るドラマであることを教えてくれます。

まくりが特に上手い騎手は誰か

前述の通り、「まくり」は馬のスタミナを極限まで要求する、非常にハイリスク・ハイリターンな戦法です。そのため、この作戦を成功させるには、馬自身の能力はもちろんのこと、それを引き出す騎手の卓越した技術、冷静な判断力、そして何よりも「ここで動く」と決断できる大胆さが不可欠となります。

ここでは、現代の競馬界において「まくりの名手」と呼ぶにふさわしい騎手たちを、その騎乗スタイルと共に詳しく紹介します。

現代の第一人者:ミルコ・デムーロ

データ上、「まくり」という戦法を最も得意とし、その代名詞的存在となっているのがイタリア出身の名手、ミルコ・デムーロ騎手です。彼の真骨頂は、レースの流れを直感的に読み取り、勝機と見れば躊躇なく早めに動いてレースの主導権を握りにいく、非常にアグレッシブな騎乗スタイルにあります。

日本の競馬では、最後の直線まで脚を温存する乗り方がセオリーとされることが多い中で、彼のスタイルは異彩を放っています。特にスローペースを敏感に察知する能力に長けており、「このままでは前が止まらない」と判断すると、他の騎手が動くのを待たずに自ら仕掛けていくのです。馬の能力を信じ、常識にとらわれずに勝利への最短ルートを突き進む。その姿勢が、数々の劇的な「まくり」勝ちを生み出してきました。

代表的なレース:2018年 大阪杯(スワーヴリチャード)

このレースでデムーロ騎手は、スローペースを見抜くと、4コーナーの手前から早々にスパートを開始。他の有力馬がまだ仕掛けをためらう中、一気に先頭集団に取り付くと、そのまま後続を突き放して圧勝しました。レース展開を自ら作り変えてしまう、彼の真骨頂が発揮された見事なまくりでした。

孤高の天才:横山典弘

ミルコ・デムーロ騎手とは全く異なるアプローチで「まくり」を芸術の域にまで高めたのが、ベテランの横山典弘騎手です。彼の騎乗は、時に後方で一頭だけ離れて追走する「ポツン」と呼ばれる奇策から、ゴールドシップで見せたような大胆不敵な早仕掛けまで、予測不可能で変幻自在です。

彼のスタイルは、データやセオリーよりも、レース全体の空気や、その瞬間の「馬との対話」を通じて、最も勝つ確率の高い選択肢を見つけ出す天才的な感性に基づいています。前述の通り、常識外れの個性を持つゴールドシップと彼の感性が完璧に共鳴した2015年の天皇賞(春)での勝利は、馬の気性を深く理解し、その能力を最大限に引き出すための最善手として「まくり」を選択した、横山典弘騎手ならではの名騎乗であったと言えるでしょう。

デムーロ騎手のまくりが「情熱的でアグレッシブ」なら、横山典弘騎手のまくりは「静かで計算され尽くした」一手。対照的なスタイルですが、どちらも超一流の技術です。

他にもいる「まくり」の名手たち

この二人以外にも、ここぞという場面で大胆なまくりを見せる勝負強い騎手たちがいます。

闘魂の勝負師:岩田康誠

地方競馬出身の岩田康誠騎手は、その闘志あふれる騎乗スタイルで知られています。地方競馬は中央競馬に比べて直線が短いコースが多く、早めに動く戦法が求められる場面が少なくありません。その経験から培われた勝負勘と、馬群をこじ開けてでも前に進むという気迫が、彼のまくりを支えています。スタミナ豊富な馬に騎乗した際の強気の仕掛けには特に注意が必要です。

冷静なる戦略家:川田将雅

常にトップを争う川田将雅騎手は、レースを緻密に分析し、極めてロジカルに騎乗することで有名です。彼の「まくり」は、感情的なものではなく、ペース、馬場状態、相手関係など、あらゆるデータを考慮した上での「勝つための最善手」として繰り出されることが多いのが特徴です。そのため、彼が早めに動いた時は、展開が後方待機馬にとって不利である可能性が高いというサインにもなります。

馬券検討のポイント
このように、騎手の個性によって「まくり」を敢行する背景やタイミングは異なります。馬券を検討する際は、単に「まくり経験のある馬」を探すだけでなく、「その馬にどの騎手が乗るのか」という組み合わせまで考慮することで、より精度の高い予想が可能になるでしょう。

競馬の脚質「まくり」の魅力まとめ

  • 脚質とは競走馬の得意な走り方や戦法のこと
  • 主な脚質には逃げ・先行・差し・追い込みの4種類がある
  • 脚質は競馬新聞や競馬情報サイトで調べられる
  • コーナー通過順位を見るとレース中の動きがよく分かる
  • まくりは第3コーナーあたりから早めに仕掛ける戦法
  • 差しとの違いは勝負を仕掛けるタイミングと必要な能力
  • まくりは持続力やスタミナが求められる
  • 追い込み馬が展開に応じてまくりに切り替えることもある
  • まくりはスローペースの展開で発生しやすい
  • 最後の直線が短いコースで特に有効な戦術
  • 大まくりは向こう正面から仕掛けるさらに豪快な戦法
  • まくりの代名詞として有名な馬はゴールドシップ
  • ゴールドシップは菊花賞や天皇賞(春)で伝説的なまくりを見せた
  • ミルコ・デムーロ騎手や横山典弘騎手はまくりの名手として知られる
  • まくりはレースの常識を覆すドラマチックな戦法である
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